とんでも腐敵☆パートナー
「神薙さんのところはいかがですか? 景気が少しずつ回復してる兆しは見られますか?」
 
 会話の主導権を握っているのは父だった。それに応える神薙が時折俺に他愛無い質問を投げかけてきて、俺も障りのない程度に答えるという図式となっていた。
 
「自動車産業はまずまずだな。僅かながら上昇の傾向にある」
 
 神薙の言葉は短く、重い。不要な言葉は徹底的に排除されている。
 
「国産の車についてはどう思う? 冬也」
 
「それは市場の動向への見解ですか? 僕個人の好みへの質問ですか?」
 
「お前の好みへの質問だ」
 
「そうですね……。正直、最近の車は僕の好みに合うのはあまり……」
 
「国産の新車に興味は湧かんか」
 
「湧きませんね」
 
 別に神薙への反抗心などという子供っぽい理由で国産車を否定してるわけではない。
 
 純粋に好みの問題だ。
 
 会話を手短に打ち切る努力は鋭意行っているが。
 
 そんな表面上も水面下も凍りついた空気の中で料理は進み、グリーンピースのビシソワーズ――冷製スープが運ばれてきた。淡いグリーンから微かな冷気が漂う。その中に器と同じくひんやりとしたスプーンを差し入れた時、今度は神薙蓮実が俺に話をふってきた。
 
「冬也さんは一人暮らしされてるのよね? 家事やお料理の腕は大分あがったのではなくて?」
 
 ねっとりと絡みつくような喋り。女はすべからく嫌悪の対象だが、この女はその頂点に立っていた。
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