とんでも腐敵☆パートナー
「桑名くんっ! 頼むから客を追い返すとかせんでくれっ!」
 
 必死な様子で訴えるのはひょろっと痩せて背の高い、眼鏡をかけたいかにも口うるさげな風貌の店長。45歳、妻子持ち。
 
「奴らはあたしの逆鱗に触れたのです!」
 
「そんな簡単に触れられる逆鱗ってどうなの!? もういいっ。君はキッチンの方を――」
 
「店長。桑名さんは既に10個のバーガーを炭に変えています」
 
 店長の言葉を遮るように、調理場から顔を覗かせたキッチン担当のバイト青年が神妙な顔で口を挟んだ。
 
「うぐぅ――――」
 
 冷や汗を流しながら絶句する店長。
 
「ふ――分かっていただけましたか? 素直にカウンターを私に一任すればいいのです」
 
 ふふっと勝ち誇った笑みを浮かべて言うあたしに店長は悔しげな視線をぶつけてくる。
 
 ぶるぶると肩を震わせ、怒りも露に、
 
「く、く、くく、桑名くん、君ねぇ……」
 
 その先の言葉を続かせないように手を打つべく、あたしはシャツのポケットから一枚の写真を取り出した。
 
 途端、店長の顔が恐怖に強張る。
 
「ふふ……可愛い娘さんですねぇ……。まだ一点の曇りもないような笑顔……。中学一年ですか。思春期って、大事な時期ですよねぇ」
 
 写真をひらひら振りながらにやりと笑う。
 
 効果はてきめんだ。よろりと一歩後退る店長。青ざめた顔で、がくっと床にくずおれ手をついた。
 
「た、頼む……娘にだけは……。何でも言うことをきくから、娘を腐道に落とすのだけはやめてくれ……っ!」
 
「くくく…………分かればいいのです」
 
 ちょろいもんね。
 
 完全なる勝利宣言と共に、あたしはくるりと背を向け、再びレジの業務に戻る。
 
 顔はしっかり接客モードに切り替えて。
 
 さーてと、お仕事お仕事♪
 
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