とんでも腐敵☆パートナー
「そんな僕に、先輩は優しくしてくれた。無理はするな、って。章は章の思うように生きればいい、って言ってくれたんだ……。だから僕は、頑張って公務員になろうと。せめて父さんの仕事を手伝えるくらいにはなろうと……。先輩のおかげでそう思えるようになったんだ」
 
 へ? 
 
 目が点になる。
 
 朽木さんは、そういう頑張りを期待したわけじゃあないんじゃないかな。
 
 だって、どう考えたって章くんは……。
 
「先輩が傍にいてくれたから頑張ってこれたんだ。失った信頼も、先輩が勇気付けてくれれば取り戻せるって思ってた。だけど、そんなの僕のひとりよがりで……僕の身勝手なお願い、なんだよね」
 
 自嘲気味に口元を歪ませる章くん。
 
「先輩が本気で僕を愛してるわけじゃないのは、なんとなく気付いてた。先輩の心には、もうあの人が住んでいたんだ。分かってた。僕に振り向いてくれなくてもいいと思ってた。僕はただ――先輩の、傍にいたかったんだ」
 
 ぽとり
 
 ひとしずくの涙が、頬を伝って手の甲に落ちた。
 
「先輩が僕を負担に思うのも当然だよ。僕は自分の都合だけで先輩に気持ちを押し付けて、先輩に何かしてあげれるわけじゃない。そのうえ先輩の恋路の邪魔になるばかりで、素直に身をひくことすらできないんだ」
 
 章くんの指先が震え出す。溢れた涙が次々にテーブルを濡らしていった。
 
「――そうだよ。仕方ないことなのに。先輩が本当に好きな人はあの人なんだから、僕と別れるのは当然なことなのに。分かってるんだ。僕が納得すればいい話なのは、分かってるんだよ。でも、どうしても……」
 
「いやいやいやいや」
 
 そこであたしは章くんの言葉を遮った。
 
「納得いくわけないよソレは。なに物分りいい子になろうとしてんの?」
 
 へ? ってカンジでキョトンとした顔が正面を向く。
 
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