とんでも腐敵☆パートナー
「なっ!」
 
 あまりの驚きに俺が固まった隙に、グリコは素早く部屋に侵入を果たした。
 
「わーい、朽木さんのお部屋ー!」
 
 部屋主の俺に断りもなく玄関にあがり、部屋の奥に進むその図々しさ、間違いなくこの二日間で俺の天敵リストNo.1にまでのし上がった悪魔の女、桑名栗子である。
 
「何しに来たっ!」
「遊びに来たーっ!」
「今すぐ帰れっ!」
「それは断るっ!」
 
 捕らえてつまみだそうとする俺の手をするりとかわし、グリコはリビングのソファーの周りを跳ね回る。
 
「拝島……」
 
 俺はじとっと拝島を見た。
 
 恨みがましい目になってしまってたかもしれない。
 
「ごめん、門を出てすぐのところで偶然会ってさ、朽木の部屋に行くって言ったら自分も行きたいってついて来ちゃって…………やっぱ、まずかったかな?」
 
 まずいどころの騒ぎじゃない。いっそ天災に遭った方がましだった。
 
 だが拝島が悪いわけではないのは分かっている。全てはグリコの策略だったのだ。拝島はむしろ被害者なのである。
 
「まぁついてきたものはしょうがない。いつかは自力でここに辿り着いただろうしな」
 
 ため息混じりに言って拝島が部屋にあがるのを迎える。
 
 拝島はまだ恐縮気味にやって来る。俺の前で足を止め、バツが悪そうな上目遣いで俺を見て言った。
 
「あと、朽木の連絡先が知りたいって言うから、つい携帯番号教えちゃったんだけど……それもやっぱりまずかったよね?」
 
 一瞬目の前が真っ暗になった。
 
「は、はは、気にするなよ拝島」
 
 拝島は悪くない。
 拝島は悪くない。
 
 悪いのは全てあの女――――
 
「紅茶と砂糖はどこですかー?」
 
「勝手にキッチンを漁るなっ!」
 
 俺はキッチンにすっ飛んでいき、グリコの首ねっこを掴んでリビングに引き摺り戻した。
 
 今日は襟付きのワンピースなので掴みやすい。泥棒猫には相応しい扱いだ。
 
< 35 / 285 >

この作品をシェア

pagetop