とんでも腐敵☆パートナー
「だって黙ってたらあたしにお茶出してくれなさそうですもん」
 
「よくわかったな。うちには不法侵入者に飲ませるお茶はない」
 
 ソファーにポイッと放って座らせる。
 本当なら紐でぐるぐる巻きにしてベランダからポイッとしたいところだが。
 
「お茶どころか塩を撒いて追い返されても文句は言えん立場だろうが。しかしまぁ、今日は特別に淹れてやる。拝島のために淹れるお茶のおこぼれを、ほんの少しだけ分けてやってもいい。だからそこでじっとしてろ」
 
 凄みをきかせた目で睨む。
 
「あたし、アールグレイがいいです」
 
「贅沢言うな! 淹れてやるだけありがたいと思え!」
 
 俺は仕方なくキッチンに立ってお湯を沸かした。
 
 あいつのために淹れると思うと腸(はらわた)が煮えくりかえるので、これは拝島のためと念仏のように繰り返し唱えながらカップにお湯を注ぐ。
 
「しかし栗子ちゃん、すごい惚れ込みようだね。昨日の今日で大学にまで朽木を追っかけてくるなんてさ」
 
 危うくカップを取り落とすところだった。
 それは大いなる誤解というものだ拝島。
 
「やだなー拝島さん、あたしちゃんと彼氏いますよぉ」
 
 なに?
 
 俺はリビングから聞こえてくる二人の会話に耳をそばだてた。
 
 こんな女に彼氏がいるとは。物好きな奴もいたもんだ。
 
「あたしの友達が朽木さんのファンで、写真とか欲しいって言うから撮らせてもらおうと思って。朽木さん昔から大勢ファンがいましたから」
 
 ああ、嘘かと納得する。拝島に怪しまれないよう理由を考えてきたらしい。
 
 こいつとしても俺と拝島の仲がうまくいって欲しい訳だから、自分と俺との仲を誤解されるのは避けようとしてるのだろう。
 
 紅茶の入ったカップを三つ盆に載せ、リビングに運んでテーブルに置く。ちらりと横目でグリコの顔を見ると、グリコも俺と視線を合わせて大きな瞳をにやりと細めた。
 
 腐ったりんごを超える腐れ女(くされめ)だがしたたかさだけは本物だ。
 
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