君へ

18

なおが小さく頷くのを見てドライヤーとアイスを取りに行く。
なおは大人しくソファーの前に座って待っている。
小さな体を余計縮こめてる。
TVも点いているけど頭に入っていないようだ。
100円だし気にしなくていいのに。
「はい」
アイスとスプーンを渡すと上目に俺を見て反応を待ってる。
好きにしていいんだよ。
「髪乾かしてあげるからその間食べてな」
ドライヤーのスイッチを入れてなおの後ろのソファーに座って髪を乾かしていく。
さらさらと手触りの良い髪。
まだ滴が落ちるのを丁寧にすいていく。
遠慮して早めに出て来たのだろう。
冷たくなりつつある髪を乾かすと甘い香りがする。
俺と同じシャンプーなのに俺からは絶対しない甘い香り。
しゃく。
逡巡していたスプーンがアイスを掬う。
小さな唇が甘いだろうアイスを含む。
「美味しい?」
聞くと振り向いて頷いてくれる。
「棒アイスのチョコ苺食べたことある?」
首が左右に振られる。
「美味しいよ。今度食べてみる?」
なおは目を見開いて驚いてから小さく頷いた。
髪が乾いてくると白くて柔らかそうなうなじが髪の間から見え隠れする。
美味しそう。
………いやいやだめだろ。
…でも食べたい。
しょうがない。
「なお一口ちょうだい」
あの頃のようになおの肩に顎を乗せてお願いする。
いつも俺が食べさせたりなおが食べさせてくれたりしたよね。
あの頃と違ってなおの白い頬が真っ赤になる。
「だめ?」
笑顔でなおを見つめる。
「前みたいに食べさせて」
俯いたなおの長い睫毛が赤い頬に影を作る。
ちゃんと律儀にアイスを差し出してくれるんだよね。
震えてる?
でも差し出された甘いご褒美には逆らえない。
ぱくりとスプーンをくわえる。
「おいしい?」
掠れた声で囁かれる。
「うん」
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