紅芳記

翌日の昼。

仲橋が目を点にするも、私は再び言いい聞かせるように言いました。

「仲橋、聞こえなんだか?
城代の矢沢殿を呼んでほしいと言うたであろう。」

「し、しかしながら奥方様。
何故、御城代様を?」

「それは、まだ言えぬ。」

言ったら仲橋もふじも反対する。

「……承知致しました。」

仲橋は渋々一礼して退出していきました。

しばらくして、部屋に年老いた武士が入って来ました。

「奥方様、城代家老矢沢頼綱にございます。」

「矢沢殿、忙しいところすまぬ。」

「いえ。
奥方様のお頼みとあらば。


「本日来てもらったのは、折り入って頼みがある故じゃ。」

「はい、何なりと。」

「…私も上洛したいのじゃ。」

「なっ…!
奥方様っ!」

仲橋もふじも絶句しています。

「控えよ。」

静かに説き伏せ、矢沢殿を見つめます。

「は。
仰せのままに。」

「よいのか?」

「はい。
殿から許しは出ております故。」

「…殿から?」

どういうことかしら。


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