紅芳記

それから、十人が殺され、穴に投げ捨てられました。

その度に悲鳴がおこり、まさにこの世の地獄のようでございます。

されど、それでも縄に繋がれた方々は半数以上残されております。

「次、お伊万の方様、前へ!!」

名を呼ばれたお方は、まだあどけなさの残る少女でございました。

「まだ、あんなにお若いのに…」

小さく漏らした声に、才蔵が応えてくれました。

「あの方は、まだ十五だそうで…」

「十五…」

私が殿に嫁いだ時と、同じではないか…。

──!!

その方も、殺されねばならないなんて…。

一体、太閤殿下は何をお考えなのでしょう。

「次、お国の方、前へ!!」

また一人、殺されようとした、その時。

「待たれーい!!」

早馬が、三条河原に到着致しました。

辺りは騒然とします。

「太閤殿下からの言づてをお伝え致す!
豊臣秀次公御側室、お伊万の方様を、助命させらるるべし!!」

お伊万の方様…?

その方は、もう……。

早馬の使者はそれを分かるはずもなく、言葉を続けます。

「お伊万の方様、即ち最上義光公御息女駒姫様は、上洛されてより未だ一月。
秀次公とお会いになった事も無く、義光公の御嘆願並びに太閤殿下の御慈悲により、助命した後、尼となす!!
駒姫様はどなたか!!?」

その言葉に、返事など出来る者がありましょうか。

皆が口をつぐみます。

それに、使者も気付いたようで、

「まさか、駒姫様はもう…」

と驚いていらっしゃいます。

お国の方様が、小さく頷かれました。

使者の方は、背を丸めて、

「太閤殿下に、ご報告致す…」

と、三条河原を後に致しました。


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