甘いクスリ
 

たしかに、
ライブ経験がないのって、
私だけ、なんだけど。


そんな言い方、
しなくても
いいじゃない。


ショックで俯き、
空いた場所で、
ギターケースを開けた。


堂野先生も、私の隣で、
ギターを出し始める。


「堂野先生」


私と先生の間に、
真月さんが並ぶ様に、
膝を抱えて座る。


「おっす。真月、
里奈は向こうの部屋なの?」

「そう。里奈ちゃんが来るまで
私が歌いますよ−。」

仲よさそうに二人は話す。

が、ぽそっと

「先生、狙った子には、
優しくしなきゃダメよ。」

そう、言った。

真月さんの小声の囁きに、
堂野先生は、バッと
こちらを見る。

私を涼しげな眼差しで
一瞥したあと、彼女は
堂野先生の耳元を掌で覆い、
ボソボソっと、二言、三言、
何か囁き立ち上がる。

「まっ・・・真月、
なんで・・それをっ・・・」


私の視界を隔てる壁がなくなり
彼女の立ち上がった後には、
首まで真っ赤に染まった
堂野先生がいて。

「都築さん、敵討ちして
あげたわよ。」

してやったりな女王様な笑顔が
スラ〜ッと高い位置から、
私を見下ろしていた。


 




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