甘いクスリ
 

「よし。
んぢゃ、いきますか。」


時間が来て、狩野先生が、
ギターケースを手にとり
立ち上がる。

「う−っす。」

ギターケースを、
それぞれ手にして、二手に別れ
スタジオに足を踏み入れる。

遅刻したモノは、
容赦なくおいていかれる。
・・・って事で、
七海ちゃんは、アウト


「ああ。いけない。
忘れるところだった。
樹里。買ってきたよ。」

真月さんは、部屋に
入りかけたところ、ひきかえし
そういって、鞄の中から紙袋を
取り出し、鷹尾先生に手渡した。


予備の弦かな・・・


「サンキュ。助かった。
じゃ、あとでな。」

鷹尾先生の、満面の
何とも言えない笑顔。


ほんっとに、奥さんの事
好きなんだね。


もう、アソコまでグダグダだと
羨ましいとか通り越して
笑えてくるよ。


「都築、早く来いよ。」


緩みかけた口角に力をいれ、
微笑を耐えていると、
ちょっと不機嫌そうに
堂野先生が、扉をおさえたまま
私をよんだ。

いけない。
楽器、ださなきゃだよ。


「すいませんっ」

「おまえ、よそ見してる
余裕ないだろ。」

周りには聞こえない位の
小さな声で、先生は言う。

・・・・


キツイ一言だった。


 
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