†神様の恋人†

残酷な恋

「では、出発しましょう」

伝令使の合図とともに、わたしたちは隊形を整え出発した。

誰も言葉を交わすこともなく、しばらくの間、淡々と前に進み続ける。

こんなにも長いこと夜空の星を眺め続けるのは、初めてかもしれない。

ぼんやりと星を眺めながら馬を走らせていると、ジャンヌが前を行く伝令使に声をかけた。

「ヴィエンヌ伝令使。今、フランスはかなり危機的なのでしょうか?」

伝令使は先頭で馬を走らせながら応える。

「そうですね。オルレアンを奪還できるかどうかにかかっていると言っていいでしょう。オルレアン市民はもう既に疲弊しきっています。彼らは援軍を待ちわびていることでしょう」

「…そうですか。王太子様はどうされているのでしょう?」

「シャルル王太子は、シノン城で策を練りながら反撃の好機をうかがっておいでですが、どうにも自信をなくされているようです。ですが、イギリス軍の王であるヘンリー6世はたった8歳の幼子でまだ戴冠式を行うことができません。代々、フランス王はランスで戴冠式を行ってきました。ヘンリー6世が戴冠式を行う前に、シャルル王太子がランスで戴冠式を執り行うことができれば、まだ我々にもチャンスはあります」

「…ランスで戴冠式。………神もそう言われた…」

ジャンヌが思いつめた瞳でつぶやいた。

伝令使にはおそらくその言葉は聞こえなかっただろう。

彼はフランスの現状を続けて語った。

「イギリス軍は非常に統制がとれた組織的な軍です。数において勝っていた我々が木っ端微塵に砕かれた。我々の軍は、報奨を得て領地を広げようとする貴族たちの寄せ集めにすぎません。寄せ集めの彼らの士気を高めることのできる人物が、我々には必要不可欠でしょう」





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