†神様の恋人†
……士気を高めることのできる人物。

王太子様でもできないことをできる人物が果たしているのか。

それはとても果てしもないことのように思えて。

頭上に果てしなく広がる空が、怖くなった。

わたしたちは再び会話をなくし、夜空の星を友として歩みを進めた。




「では、ここで休憩にしましょう」

伝令使が止まったのは、小さな修道院の前だった。

途中、小休憩を挟みつつ、4、5時間馬に乗ってきたわたしたちは疲れ果て、休憩の言葉にほっと息をついた。

まだ暗い闇の中に浮かぶその小さな修道院の前で、次々と警護隊の男たちが馬から降りる。

ファビオは馬から降りると、馬上のジャンヌに手を差し伸べた。

「ジャンヌ様、お手を」

差し伸べられた手に、ジャンヌは明らかに躊躇していた。

瞳を揺らし、手綱を持つ手をいっこうに緩めないジャンヌ。

「ジャンヌ様?」

ファビオが訝しげに眉を寄せ、差し出した手を強引に突き出そうとしたその時。

ジャンヌはなめし皮のブーツを履いた足に力を込めると、一気に馬から飛び降りた。

「手助けは必要ない。一人で大丈夫です」

それだけ言って馬を引き始めるジャンヌの背中を目で追いながら、ファビオは片足で土を蹴った。





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