Libra ~揺れる乙女心~
悪い噂がたくさんある子だった。
妬みやひがみのせいだろう、と思ってはいても、その噂を全く信じないこともできず、俺も噂を耳にするたびに、そういう女なのかと疑った。
そんなある日、俺に告白してきた。
とても暑い日だった。
部活に向かう俺を呼び止めた彼女は、大きな瞳から大粒の涙を流していた。
彼女は、俺宛に書いていた手紙を誰かに盗まれたんだと言った。
俺は、理科室で彼女の話を聞いた。
実験用のへびの瓶を見つめながら…
『好きでした』
その震える声を聞いて、俺は彼女の今までの噂が全部嘘だと感じた。
世間の噂に苦しんだ経験のある俺は、彼女を放っておくことが出来なかった。
そこですぐにOKしてしまったのは、確かにかわいかったからかも知れないが。
本気になるつもりもなかった。
野球に影響を与えるほどの恋は俺にはできないし、するつもりもない。
高校時代の思い出として、彼女の一人や二人いてもいいか…
その程度の気持ちで、俺は彼女と付き合うことになった。