約束
「なんとなくなら。もっと星が見えればいいなと思うんだけど、この辺りは明るいもの」

「俺の実家ならもっと見えるよ。休みのときでも見にきたらいいよ」

「え?」

 その言葉に顔が赤くなるのが分かった。

「いや、変な意味じゃなくて。って言ってもそう聞こえちゃうね。普段お世話になっているから、よかったら遊びに来るといいよ」

 私は今の気持ちを言葉にできずに、ただうなずいていた。社交辞令のようなものだと思うが、それでも嬉しかったからだ。

 木原君の家。いつか行けたらいいな。

 だが、これ以上考えていると、にやにやがとまらなくなりそうな気がし、軽く自分の頬をつねり、頭を切り替える。

「借りた本、最後まで読んだよ。もってくるね」

 スリッパを脱ぎ、部屋の中に入る。そして、木原君から借りた本を返す。

「早かったね。続きを読む?」

 私がうなずくと「待っていて」と言い残し、部屋の中に戻る。そして、同じブックカバーがつけられた本を持ってきた。中を確認すると、確かに続きのものだった。

「ありがとう」

 あれ以来読書に目覚めたとまではいかないが、彼から本を借りて読む機会が増えた。私の日常に当たり前のように木原君が溶け込みつつあった。


 それから三十分ほど話して、それぞれの部屋に戻る。
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