約束
 話す機会は増えたが、まだ親しくなるのは難しいみたいで彼は自分のことをあまり話してくれない。

 将来の夢とか、大学で何をしたいのかということも聞いたことがあるが、彼は曖昧に微笑んで、教えてはくれなかった。


 一言、いろいろとね、とだけ言っていた。今の私と彼の距離はまだ遠いのだろう。今までなら落ち込んでいたかもしれない。だが、それでもその距離を少しずつ狭めていければと思っていた。



 あくびをかみ殺し、窓の外を眺めた私の机に、複数の影がかかる。クラスでそんなに親しくない、挨拶をする程度のクラスメイトだ。だが、彼女たちが木原君の話を良くしているのは知っている。

「木原君と一緒に暮らしているって本当なの?」
「本当だよ」


 中間テストが終わり、じめじめとした梅雨の足音が聞こえ出した時、そんな噂が流れ出す。噂ではなくて事実だが、いつどこでそういう話が漏れたのかは分からない。

 素直に認めることにしたのは、嘘をついたほうが事態が大事になる、と百合に言われたからだ。学校には木原君の両親が引越しするときに伝えていたようで、問題になることもなかった。

 ただ、たまに少しだけ私の周りが慌ただしくなった。授業が終わり、昼休みを告げるチャイムが鳴ると、私の周りにクラスメイトが複数人やってきた。もうそれも見慣れた光景になりつつある。

「木原君って何を普段しているの? 好きなものとか」

「一緒に暮らしていると言っても、顔を合わせるのはごはんのときだけだから、そんな部屋で何をしているのかとかは知らない」

< 168 / 546 >

この作品をシェア

pagetop