約束
 百合が彼の文句を言っていたのもその一種だったのかもしれない。

「自覚なかったらしいよ。一馬さんに結婚のこと言われるまで」

 彼は天を仰ぐと、首を横にふった。

「そっか」

「どうにかできないかな」

 私の言葉に木原君は首を横に振るだけだ。

 私も分かってはいた。二人はお互いの気持ちを過去にしようとしていることを。私には幸せの二文字が重く、それでいて理解できなかった。
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