黒猫眠り姫〔上〕[完]

said 鈴

女の人が去った後も、その場から動けずに

いた。情けないほど惨めな格好。

こんな姿で、店に戻る気もしない。

まして、この姿を、湊や桐、尚に見せられない。

逃げていることなんて自分でもわかる。

ここで逃げたらなんて思う。

このまま、湊から桐から尚から姿を消せれば、

どれほど、いいと思ったことだろう。

あの人も悪い。

でも、悔しいほど最低なのは自分だった。

もう一度繰り返してしまったのは、自分が

子どもだったから。

ちゃんと聞いてあがられたら、彼女は、

ここまで怒らず、そして悲しいって思う

ほど好きな思いを私にぶつけられた。

誰にだってある感情を最初から否定された

彼女は、行き場のない感情をどれほど、

桐に届けたかっただろう。

それを否定するような言い方をして、

彼女を傷つけたのは自分だった。

どんなに自分が酷く言われても耐えられた

それが当然だと言わんばかりに。

だけど、好きなら言ってほしくなかった。

桐が好きなら、桐を悪く言って欲しくなかった。

桐の事情とかも聞いていないのに、

桐を貶す彼女をどうしても許せなかった。

いつだって、悲しいのは誰かの傷ついた姿だった。

あの時、もっと大人だったらこんな風に、

後悔もしなかったと思う。




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