黒猫眠り姫〔上〕[完]
「何かあるんだろ?」
桐がベンチから空を見上げる。
「・・・・・・・・」
「俺がいると話づらいか?」
いつも空気を読んでくれる桐。
「ううん。ここに居て。」
今は傍に居てほしくて、
泣きそうな顔を上げる。
「鈴?大丈夫?」
手を握ってくれる湊。
そんな湊を見ていると、
胸が締め付けられて痛かった。
「・・・湊、桐。痛いって思う
記憶があるってすごく辛いんだ。」
声が震える。
それでも湊も桐も手を握ってくれて
私に優しく手を握り返した。
「・・・・痛いって思える自分は
きっともう諦めてるんだ。」
そのことが頭を駆け巡る。
「うん。」
湊も桐も何も言わずにうんと聞いてくれた。
「・・・前よりはきっと進めれれてた。
記憶ごと忘れられてた。今の自分が、
前よりもずっと嫌で嫌いで居なくなって
しまえばいい。そう思っちゃった。」
胸の痛みに目頭があつくなる。
「消しちゃいたい。今ここに居る
自分ごとまっさらに消えて欲しい。」
震えた手がどうしようもなく嫌になった。
「・・・・湊、桐。苦しいってもう辛くて
嫌だよ。もうそんなふうに思いたくない。
痛いって誰よりも思っちゃいけないのに。」
胸に溜まった思いを吐き出すように
湊と桐に言う。
二人は寂しそうに辛そうに
私の弱音を空を見上げて聞いた。
きっと世の中には、誰もが悩み
苦しんでいることの方がずっと多いんだと
思うから私だけ弱音を吐くことは
許されないんだとずっと心に
秘めていた。