ひなたぼっこ~先生の、隣~
そっと姉を抱き抱え、玄関まで連れて行く。
途中暴れたりもしたが、さすがに男の力に敵わないと思ったのか大人しくなった。
部屋に入ると、姉は階段に上って行った。
「ありがとうございました」
玄関で、母親が深く頭を下げた。
「いえ…」
頭を上げるように促す。
「先生、ありがとね…」
母親の隣に立っていた麻生が、苦笑いしながら言った。
「お姉ちゃんさ…普段は優しくてイイお姉ちゃんなんだけど、精神的に不安定になるとね…」
そう喋る麻生の表情は、今にも泣き出しそうだ。
「いつも、この子に迷惑かけちゃって…私がしっかりしなきゃいけないのに…」
母親も、疲れ切った表情だ。
さっきの表情は、このことだったのかー…
「僕で良かったら、いつでも相談のりますので…麻生…楓さんの携帯からでも、ご連絡くださって結構ですので」
「そんな…先生にまでご迷惑を…」
母親は首を横に振り、断る。
「お母さん!先生なら大丈夫だよ!」
「でも…」
「楓さんの言う通り、本当に大丈夫ですから」
ふっと笑って言うと、母親はまた頭を下げた。
床には、ポツリポツリと水滴が落ちるのが目に入った。