暗黒時代
突拍子もない言葉で、一輝は鳩が豆鉄砲を食ったように、きょとんとしてしまう。
まだ小学生気分が抜け切れていないような、澄んだ瞳を一輝は呆然としながら見ていた。
あたりに時計の秒針の音だけが響き、長い沈黙となっていた。
だが、沈黙が長引くにつれて、恩の雰囲気に一輝は負け、笑って返答する。
「いいよ」
「やったー!ありがと、カズ!」
「カ、カズ…?」
「え?嫌か?カズ君がいい?それともカズリン?」
なんとも恩には、人の愛称をつけるセンスはないらしい。
一輝は苦笑してしまうが、恩本人はとても真剣らしい。
――あ、今俺笑ってんのか……?
一輝は口元を触って、少し驚いた。久しぶりに笑った、とはっとする。
恩の方は、どうして一輝が驚いているのかわからず、じっと一輝を見つめていた。
「おい」
「あ、ごめん。カズでいいよ。俺は、お前の事、恩って呼んで……」
その時である。
先輩の、それも大勢の女子の歓声が、一輝達に聞こえてくる。
「あの子が光一先輩と湟一先輩の弟よ!」
「すごーい、目と口元がそっくり!」
「かわいーんだけど!」
恩が床の方に視線を落とす。
一輝も恩にならい視線を落とし、同時にちらりと上靴のラインの色を見た。
緑――どうやら3年生だ。
「光一先輩、医療関係の大学に入ったんだよね?」
「湟一先輩も、もう高2なのよねー…まだまだかっこよさは変わっていないのよね?」
今先輩に聞かれている、光一と湟一とは、一輝の2人の兄の事である。
一番上の光一はもう二十歳で、次男も高校生であった。
一輝の方は、視線を落としたまま、はぁ…、という相槌を打つ事しか出来なかった。
一輝の頭では、適当な言葉が浮かばなかったのだ。
「あなたもきっと、兄さんのように頭が良いのよね?」
「憧れちゃうなぁ、あんな兄さんがいると…」
「やっぱり勉強とか教えてもらってるんでしょ?」
「羨ましー。どっちも優しい先輩だったし」
一輝の表情は次第に曇って行き、我慢の限界が来たらしく、すくっと立上がり、教室を出る。
恩は先輩に何か謝っていたようだった。
まだ小学生気分が抜け切れていないような、澄んだ瞳を一輝は呆然としながら見ていた。
あたりに時計の秒針の音だけが響き、長い沈黙となっていた。
だが、沈黙が長引くにつれて、恩の雰囲気に一輝は負け、笑って返答する。
「いいよ」
「やったー!ありがと、カズ!」
「カ、カズ…?」
「え?嫌か?カズ君がいい?それともカズリン?」
なんとも恩には、人の愛称をつけるセンスはないらしい。
一輝は苦笑してしまうが、恩本人はとても真剣らしい。
――あ、今俺笑ってんのか……?
一輝は口元を触って、少し驚いた。久しぶりに笑った、とはっとする。
恩の方は、どうして一輝が驚いているのかわからず、じっと一輝を見つめていた。
「おい」
「あ、ごめん。カズでいいよ。俺は、お前の事、恩って呼んで……」
その時である。
先輩の、それも大勢の女子の歓声が、一輝達に聞こえてくる。
「あの子が光一先輩と湟一先輩の弟よ!」
「すごーい、目と口元がそっくり!」
「かわいーんだけど!」
恩が床の方に視線を落とす。
一輝も恩にならい視線を落とし、同時にちらりと上靴のラインの色を見た。
緑――どうやら3年生だ。
「光一先輩、医療関係の大学に入ったんだよね?」
「湟一先輩も、もう高2なのよねー…まだまだかっこよさは変わっていないのよね?」
今先輩に聞かれている、光一と湟一とは、一輝の2人の兄の事である。
一番上の光一はもう二十歳で、次男も高校生であった。
一輝の方は、視線を落としたまま、はぁ…、という相槌を打つ事しか出来なかった。
一輝の頭では、適当な言葉が浮かばなかったのだ。
「あなたもきっと、兄さんのように頭が良いのよね?」
「憧れちゃうなぁ、あんな兄さんがいると…」
「やっぱり勉強とか教えてもらってるんでしょ?」
「羨ましー。どっちも優しい先輩だったし」
一輝の表情は次第に曇って行き、我慢の限界が来たらしく、すくっと立上がり、教室を出る。
恩は先輩に何か謝っていたようだった。