【完】最期の嘘
何度かけても繋がらない電話。



滅多に焦らない礼治が、自分を失うくらい焦っていた。



汐のマンションに到着し、古ぼけた鉄の階段を全力で駆け上がる。



汐の部屋……だったところは、標札がなくなり、淋しげな雰囲気を漂わせていた。



ドアノブを回すと、抜け殻である。



礼治は身体の力が全て抜けて、床に崩れ落ちた。



何よりも、自分の気持ちよりも大事にしてきた汐。



しかし、その汐はもういない。どこに行ったかも検討がつかない。



その事実が突然降り懸かって来たせいで礼治はびくりとも動くことが出来なくなった。
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