王国ファンタジア【宝玉の民】
森に入って一日目。
日中は特に危険な生き物に会うことも無く、無事に過ぎた。
頭上を覆う広葉樹の隙間から空を伺い、適当な所で仮眠を取った。
夕闇の中目覚め、乾いた木の枝を集めて焚き火を起こす。
森の中は意外と恵み豊かで、食べ物や飲み水に苦労はしなさそうだ。
沢で汲んだ水を煮沸してお茶を入れ、道中拾った木の実を煎って食べた。
本来ならば狩りでもして食料の調達をするのだが…。
わざわさ動き回って自分の身を危険に晒す気にはなれなかった。
闇の中で独り、何をするでもなく長時間過ごすのは苦痛だ。
考えたくない事や思い出したくない事が脳裏に浮かんで、思考を埋め尽くす。
(守る価値の見出だせない者達の為に力を使う…のか…)
ドルメックは核石から力を引き出す術を母から教わった。
全てを失ったあの日の一週間前だった。
「力の使い方は教えてあげるけど、この力は【宝玉の民】以外の人の前では使っちゃ駄目よ?」
母は一番最初にこう言った。
ドルメックは意味が解らず、どうしてなのか聞いた。
「人は、巨大な力を持つ者を恐れ忌み嫌ったり、
逆に利用しようとすることがあるから…。
ドルメックにはまだわからないかしらね…?」
そう言って頭を撫でられた。
今なら、あの言葉の意味が良く分かる。
出来ることなら分かりたくはなかったが…。
そして、その一週間後に忌まわしいあの日がやってきた…。
幼く、匿われるだけで何も出来なかった自分をどれだけ呪ったことだろう。
泣きながら仲間を埋葬した時の、固まった冷たい肌の感触は未だ忘れられない。
苦痛に歪んだ仲間の表情が、自分を責めているようで。
自分の無力さが悔しくて、
仲間を失ったことが悲しくて…。
(俺がもっと大人だったら、俺がもっと強かったら…)
そんなどうにもならない事ばかり考えて、何度も何度も謝りながら仲間を弔った。