365回の軌跡

消えていく過去

「こんにちは~!」
私はある団地の一室を大きな声を掛けながら開ける。玄関やその先に続く廊下には段ボールが数個、置いたままだ。先週と同じか…と私は靴を脱ぎながら溜め息を吐く。
「あら、宮川さん。もうそんな時間?」
奥の居室から顔を出したのは豊田さん。今年95歳になるのに元気で独り暮らしを続けている。
「もう10時だよ!今日はお掃除だからね。」
私は手際よく、手洗い、うがいを済ませ、部屋の窓を開け掃除機を準備する。
「あのね宮川さん、私メガネ無くしちゃったんだけど、知らない?」
豊田さんが困った顔で私に訊いてきた。
(またか…)
私は心の中で呟く。年齢的に物忘れがあるのは当然だが、豊田さんはここ最近急激に物忘れが増えてきた。 週に一回しか訪問していないが週を追うごとに、ハッキリと物忘れが増えている。私の言ったこともすぐに忘れてしまう。私は黒沢さんに相談してみることにした。
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