365回の軌跡
「あら、優雨久しぶりじゃない!」
辿り着いた一件の小さなバーで、若い女性が酒をつぎながら優雨に笑顔を向けた。
「おす!久しぶり!これが前話した宮川沙紀」
優雨が私をその女性に紹介する。
「初めまして。宮川沙紀です」
私は頭を下げる。
「初めまして。優雨の幼なじみでここで飲み屋をしてるアミっていいます。それにしてもソックリだね」
「…え?」
私は急に意味が分からない事を言われ、聞き返した。
「おい、それよりいつもの頼む。それから沙紀はカシスオレンジでいいっけ?」
「うん」
「はい、了解」
私と優雨は椅子に座る。

数杯飲んだところだろうか、優雨がトイレに立った。私は一人で梅酒を啜っていると、
「ホント沙紀さんソックリよ」
とアミさんが言ってきた。
「さっきも言ってましたね、何なんですか?」
と私は聞いた。
「あら?優雨から何も聞いてない?」
「え?」
私は不思議な顔で聞き返した。
「優雨にはね、二年前に亡くなった婚約者がいたの」
「…!!」
私は初めて聞くことで思わず息を飲んだ。
「とても熱愛でね。優雨のお父さんも反対したんだけど押し切って結婚を約束し合ったのよ」
アミさんは懐かしそうな顔で隣の席を見た。
「その席で結婚を約束するって二人で指切りしてたっけ」
アミさんは私へ目線を戻した。
「残念なことにその娘はその後、事故で亡くなった。優雨は悲しみに打ちひしがれたわ。何もする気にならなくて、しばらく引きこもってたわ。ようやく元気を取り戻して、仕事を始めたころ、あなたに会ったの」
アミさんはここでカクテルを一口啜った。
「私が見ても思うわ。あなた、その亡くなった優雨の婚約者にソックリなのよ!」
私は頭をハンマーで殴られた感触を覚えた。
「優雨も言ってたわ。あなたと会ってると、亡くなった彼女と話してる様だって…」
私はアミさんの話を最後まで聞かずに立ち上がり、走って店を出た。
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