365回の軌跡
私は仕事帰りに黒沢さんと少しお酒を飲み、家路に着いた。もうすぐクリスマスとだけあって街のムードも煌びやかになっていた。
「え!?」
私は大きなデパートの入り口に立ったクリスマスツリーの下に立つ一人の男を見て、足を止めた。間違い、優雨だ。私が気付いたのと同時に優雨も私に気付いた様で、小走りで私に近付いてきた。
アミさんのバーから私が帰ったきり、優雨とは会っていないから、一ヶ月半ぶりになる。
「久しぶり」
優雨はやや疲れた感じで私の前に立った。
「何してるの?」
私はやや冷ややかに聞いた。
「ここで待ってたら沙紀が通るんじゃないかなって思って。ずっと待ってたんだ」
ここ…?私はこの場所を思い出す。優雨が初めて傘を貸してくれた場所だ。
「沙紀、この前の昔婚約者がいたって話、悪かった。隠してた訳じゃないんだけど…」
「別にいいよ!」
私はそっぽを向く。
「私はその婚約者さんの代わりだったんでしょ?もう帰るから!」
私はそのまま歩き出した。優雨を見た瞬間、あの日のショックが蘇る。
「待って!」
優雨は私の手を掴む。
「なに!」
私は振り向く。
「好きだから!」
「…え」
「オレは宮川沙紀が好きだから!」
「…優雨?」
優雨が急に滲んで見えた。優雨の腕がそのまま私を抱き寄せる。私も優雨に抱きついた。涙がとめどなく溢れる。
「沙紀…オレずっと言えなくてごめん」
「優雨…ありがとう…私も…好きなんだ」
私も涙声で何とか伝えた。麻耶と遥に勇気をもらったもんね。
タイミングが良すぎるように雪がちらちら降ってきた。
今年、私は一番暖かい冬になった。
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