365回の軌跡

繋がった愛情

冬はいよいよ本番を迎える。寒さは一段と厳しくなり、自転車を漕ぐたびに冷気が体を包む。
「倉持さん!こんにちは!」
私はいつも通り元気よく入室する。
「今日も寒いですね!体調は大丈夫ですか?」
「…。」
倉持さんは無言でラジオを聞いている。
「この前の茶碗蒸し、どうでした?初めて作ったんですよ!」
「…まずかった」
「そうでしたか!すいませんでした!また勉強しておきます。今日も新しい料理です!待っててください!」
「…おい」
「はい?」
私は台所に行きかけた足を止め、倉持さんを振り返った。
「…何でもない」
倉持さんは何か言いかけ、途中で止めた。
「分かりました。とりあえず作ってきますね!」
私は台所へ向かう。
週に何回も倉持さんのお宅に入るようになり、料理のレパートリーはかなり増えた。自分で本屋に行って料理の本を買って家で作ってみたり、遥に教わったりして倉持さんの家で作った料理の品目は20を超えていると思う。食べて貰えてなくてもいい。私は倉持さんが飽きないように毎回違う料理を提供したかった。
私は台所へ向かいながら今日作る料理の段取りを頭の中で浮かべた。
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