ロ包 ロ孝
 俺はいつも通りにエレベーターで17階に向かう。そしてまたいつものように廊下を進み、職場の扉を開けた。

「おはよう」

 課のみんなは殆んど出払っていて、女子社員ひとりと三浦だけが残っていた。

「おはようございます、課長。ほんと最近、物騒な事件が多いですよね」

 新聞を見ながら彼が言うのは、近頃巷で話題になっている『姿無き通り魔』事件だ。渋谷、六本木を中心に起こっている暴力事件で、まだ死人こそ出ていないが、無差別に人を襲い、全くと言っていい程手掛かりを残さない、質(タチ)の悪い犯人である。

警察からの裏情報に依れば何故か男ばかりが狙われていて、金品の盗難は無い。被害者同士の関係は無く、職業も大学生からちんぴら迄さまざま。

プロファイリングの結果から『腕自慢の犯人』に依る『愉快犯的暴行通り魔事件』として捜査が進められていた。

「全くですね、三浦さん。しかし六本木や渋谷なんか、我々には縁遠い繁華街ですからね」

「ハハッ、確かにそうです。我々では腕試しにもならないでしょうし……」

 例のコーラの一件からすっかり打ち解けた三浦は、年もわりと近いし、得意先の開拓テクニックも俺のそれと似通った部分が多い。いつしか無くてはならない有能な代行として、全信頼を寄せられる迄になっていた。

だが、今日の感じはいつものそれとは何かが違う。

確たる根拠は無いが、妙な違和感が俺を支配していた。

「課長、どうかしましたか?」

「いや……栗原の件も有って最近悩みが多いんですよ」

「あまり思い詰めたら身体に毒ですし、程々にして下さいね?
 なぁに、課長が休んでも私がしっかりこなしますから心配ないですよ。ははっ」

「なんだぁ……俺は用無しですかぁ? 三浦さんも酷いなぁ。ははは」


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