ロ包 ロ孝
「ば、馬鹿を言うんじゃ無い!」

 満員電車で男と押し合いへし合いするのでさえ我慢ならないというのに、男と一緒にベッドだなんて考えられん! しかも相手は熊チャンだぞ?

「アレは最も密度の高いコミュニケーションですからね。何か得る物が有るかも知れないわ?」

「余計な事言ってないで、さっさと準備して回って来い!」

「はぁぁあい、でも最初は栗原よ?」

 周りの喧騒にも構わず、里美はソファーに腰掛けマッタリしている。すると、

「いやぁ今夜は掻き入れ時だね。坂口さんはコーラ、ここ置いとくから飲むんだね」

 またいつの間にか入って来ている!

 『銀杏婆ちゃん』こと舘野杏さんは(ご主人は銀次郎さん、だから2人の文字を取って『銀杏』になった)結婚して間もなく夫婦で向かいの喫茶店を始めた。

美男美女夫婦(本人談)の喫茶店として盛況を誇ったが、愛児2人を残して銀次郎さんは他界。その後は細腕ひとつで娘2人を大学迄通わせたという、シングルマザーの鏡のようなお母さんだった。

今も1人で切り盛りしている筈なのに、何故か巡回先で良く出くわす、捉え所の無い婆さんだ。

「コーヒーも頂いたし、俺達は行ってきます。今夜こそ召し取ってやるっス!」

 歌舞伎役者よろしく見栄を切る栗原に突っ込む。

「時代劇のおかっぴきか!」

「坂口さん! 突っ込みが微妙に長いなぁ。それじゃグランプリは取れないっすよ?」

 捨て台詞を残して栗原達は出て行った。

 俺になんのグランプリを取らせようというんだろう、あいつは!


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