ロ包 ロ孝
 今にも泣き出しそうな里美をどうしてやればいいものか……俺はオロオロするばかり。

「でも里美! この冷奴はうまいぞ? 組み合わせの妙だな」

「それはただ、刻んでお醤油かけただけだもん」

 確かにそうだ、迂闊だった。里美の涙腺はもう決壊寸前だ。

「いや! 他のも心はこもってる。味はこれから勉強すればいいさ」

 実際不味いのだから、料理についてはフォローのしようも無い。今後は一緒に厨房に立てばいい。

「ホントに? あたしのこと、嫌いになったりしてない?」

「こんな下らない事でお前を嫌う訳無いじゃないか」

 どうやら洪水の危機は回避できたようだ。頬を染めて俯いていた里美が身体を密着させてくる。

「優しいのね、淳。じゃあ淳はあたしの事好きなの?」

「ああ、勿論大好きだよ」

 里美の肩を抱き寄せて耳元に囁いた。さらっと口を突いて出たが、こんな軟派な台詞が言えるなんて、自分でも驚きだ。

「とっても幸せ。あたしも淳を愛してる」

 潤んだ瞳を俺に向け、里美は両腕を首に絡めてくる。柔らかくて温かくて、堪らなくセクシーな女性が今、俺の腕の中に居る。

「さ、里美」

「優しくしてね?」

 そう呟いた里美の唇を俺の唇で塞ぐ。2人はそのまま抱き合い、その夜ひとつになった。


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