ロ包 ロ孝
 
 山崎はその豊満な肉体を見せ付けるように腰を振って歩いてくる。しかもさっき新人をいなした時には無かったフェロモンをふんだんに振り撒きながら。

 俺は我が身に集まった視線から逃れるために、IDカードを読み取り機にかざしながらゲートを小走りで通り抜けた。

「ちょっと待ってよぉ主任。どうせ向かう場所は一緒なんだから置いて行かないでよぉ」

 冗談じゃない。これ以上衆目の面前でコイツと絡んでいる所を見られたら、後で何を噂されるか解ったもんじゃない。

 俺はそそくさと逃げる様にエレベーターへ飛び乗る。山崎はと言えば、扉をすれすれですり抜けて、まんまと一緒に乗り込んでいた。

 目的階に近付くと、エレベーター内は俺と山崎の2人きりになった。

「ねぇ。最近ちっとも構ってくれないんじゃなぁい?」

 人が居ないのを良いことに、身体を擦り寄せてくる山崎。俺はコイツのこういう慣れなれしさも大嫌いだ。

「ああ。お前も知っての通り、近頃忙しくてな。お前だって油売ってる暇は無いんじゃないのか?」

 俺と山崎はそれぞれ別件のプロジェクトを抱えていて、調査に折衝にと火の付くような忙しさなのだ。

「嫌ねぇ『油売ってる』なんてとっくに死語よ。それにあんな仕事、あたしに取ってはお遊びみたいなものだし……。今は気力も体力も有り余ってるんだからぁ!」

 ふんわりとした、コイツお気に入りの甘い花の香りが鼻をくすぐる。そして耳元にこう囁き掛けて来た。


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