『縛』
「わあ!鈴木さんだっ。」

佐伯さんは、私を見つけると、
本当に嬉しそうな表情で、
手を振ってくれた。

「お疲れ様。」

言いながら、
志央につながれた手を
ほどこうと、必死になる。

「お待たせ。もう、
山本、きてんの?」

「うん。さっきね。」

志央との会話を、ソコソコに、
彼女は部屋にあがるよう
勧めてくれる。


リビングに先に行く
彼女の後ろ姿を、
志央は嬉しそうに
見つめていた。

「志央。」

「ん?ああ、ここ、土禁なんだ。
うちもだけど、
オッサン日本人だから。
和式なんだ。」

なんか、ズレた答えが
返ってきて、苦笑する。

「だったら、余計に、手、
放して。
ブーツ脱がなくちゃ
いけないから。」

手を引っ張りながら言う。

「そう?手伝おうか?」

「結構よ。」

やっと解放された手は、
二人の熱で、少しあつく感じる。

靴を揃えて向き直ると、
彼が私の動作を見守っていた。

「行こうぜ。」
「え、ちょっと?!」

再び彼は、私の指を
絡めとるように手をつなぎ、
リビングに向かって歩き出した。


 



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