ビターチョコレート

「…長野。」


俺の問いかけに、長野は視線を合わせた。


「…昔の話や。今、俺には千代子がおる。…それに、瞳には幸せになってほしいんや。それが出来るのは長野だけやって知ったから、引き下がってんで?」


「慎一…」


「これ以上ウダウダ言ったらしばくぞ。」


「…いつもの慎一だ。」


長野は笑って、言った。もう、瞳には未練は無い。


…もう、会う事も無い。


「正直さ、慎一が相手だったら、俺に勝ち目は無いと思ってたんだよ。」


「はあ?」


「だって、慎一男前だし。」


「俺はそっちの趣味は無いぞ」


二人して笑って、職場に戻った。




「いたいいたいいたいー!!」


仕事が終わって、直帰せずに修司と真知子の家に向かった。修司をいじめるのが一番のストレス解消方。


「まだまだ!次は八の字固めや!」


修司の悲鳴が家にこだまする。


「仲良いですね。」


真知子は台所でその様子を見ている。


「真知子ちゃん!助けてー!」


真知子には助ける気はさらさら無いのだろう。それが二人の愛ってもんや。


「女に命乞いなんて情け無いやっちゃなあ。」


「ぎゃああああ!誰かこのテロリストをなんとかしてー!」


床に手を打ちつけ、降参の合図をする修司。でも俺は止める気は無い。


「珍しいですよね、慎一さんがうちに来るなんて。」


真知子がお茶を持ってこちらに来た。


「ん?ああ、ストレス解消に来ただけやねんけどな。」


修司から手を離し、お茶を飲む。


「サドだ…悪魔だ!!」


修司は床にうつ伏せに寝転がったまま、息だけが荒かった。


「何か嫌な事でもあったんですか?」


「…別に。」


真知子は心配そうに、俺を見ていた。
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