王国ファンタジア【氷炎の民】
「久しぶりだな、相変わらず手厳しい。今日は頼みごとがあってきた」

<サレンス>の言葉に少女の姿をした女神は首をかしげた。

「おや、それは異なことを。兄君さまがわらわに頼みごととは」
「そう言うな。この者たちをファンタジア王都に送って欲しいのだ。地底湖の水は王都までつながっているのだろう」

「王都? あの蛇の眷属どもかえ?」
「話が早いな。さすがは湖の姫」
「ほほ、わらわを誰と思われるか。水が流れるところは遍くわらわの知るところぞ」

 地底湖の女神は探るようなまなざしをレジィと雪狼にむけた。
 レジィは居心地悪げに身じろぎし、雪狼は大きな身体を隠そうとするかのようにレジィの背後に擦り寄った。

「その氷炎の童はともかくとして、獣までかえ?」
「できぬか?」
「たやすいことぞ。ただし、代償は高くつくえ」
「しかたがあるまい」

<サレンス>の答えに女神は薄く笑った。

「まこと兄君さまは昔から<人>にお甘いこと。そのような御身になってもまだ<人>を気になさるか」
「もう言うな」
「では、心するがよいぞ」

 水で創られた少女の姿がするりと崩れ、湖の中央がさらに盛り上がった。それはあっという間に巨大な波濤になり、二人と一頭に襲いかかった。
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