クロスロード
チラリと首元を見れば、ボタンが開かれているせいで鎖骨が露わになっていて、どくっと心臓が反応した。
足が震えていることが嫌なくらい伝わってくる。
「……この鞄、翠君のだったの」
「は?……ああ、入れ違いか」
「うん。私お母さんに連絡したくて……私の鞄、ある?」
「そこ」
私の部屋と同じようにベッドの近くに置いてある鞄。
小さくお礼を言い翠君の鞄を彼に預け、自分の鞄を開ける。
内ポケットに入れてある携帯があることにほっとし、手早くお母さんにメールを打った。
……これで用件は終わり。
もう、帰らなきゃいけない。
「……っ、」
そんなの嫌だ!と声に出さずに叫んだ瞬間、持っていた携帯をシャツの胸ポケットに突っ込んだ。
ベッドに座っている翠君は鞄の中から本を取り出している。
そういえば翠君の部屋に行った時も本読んでたな、なんて判断している私はどこか冷静だ。
鞄を床に置き、本を開こうとする翠君の前に立ってきゅっと唇を結ぶ。
私の気配に気づいた彼はゆっくり顔を上げた。