アリスとウサギ
再びいやらしく笑った熊谷。
「本当に、全く同じ反応をするんですね」
ついに堪忍袋の尾が切れたアリスは、テーブルに千円札を叩きつけ、
「失礼します」
と言って喫茶店を出た。
ツンと寒い冬の空気。
ツンと熱い目頭。
アリスはウサギのマフラーを巻き、歩き出す。
自宅までの道、立ち止まる度にウサギの香りがした。
ウサギが語ってくれなかった過去は予想以上にハードだ。
話したくなかったのも今なら少し理解できる。
アリスは自らの言動を心から反省した。
やっぱり彼の口から聞きたかった。
話してくれる時が来るまで、待てば良かったんだ。
愛しさを感じてももう手遅れ。
切なさだけが心に残り、首の温もりがやけに苦しかった。