アリスとウサギ




「あら、いらっしゃい」

 笑顔で出迎えてくれたのはアヤだった。

 客はカウンターに一人。

 しかし会計を済ませ、もう帰るという頃らしい。

 アリスは一人、端の席に座る。

「今日は早苗ちゃんと一緒じゃないの?」

「はい。彼の家から直接。なんだか落ち着かなくて」

「ふふ、そう」

 この日、ウサギは兄の浩介を連れて、実家と会社に話を付けに行った。

 恐らくそれなりにドロドロした戦いになっていることは予想がつくが、案じてばかりいるとじっとしていられなかったのだ。

 落ち着いたジャズの流れるバー。

 アヤという今となっては良き理解者かつ相談相手と話をするだけでも、心は楽になるというものだ。

「何飲む? いつものカシス?」

「あ、はい」

 アヤは笑みを浮かべてカクテルを作り始めた。


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