アリスとウサギ

「一つ昔話をしてあげるわね」

 カシスソーダのグラスをコースターに乗せ、アヤは自分のグラスをチンと当てた。

 アリスは軽くお辞儀をして、カクテルを一口。

「うちのオーナー、あんまり大学のことは口に出さないんだけど、再入学してしばらくした頃、一度だけ話をしたことがあったの」

「どんな話ですか?」

 アヤはクスクス思い出し笑いをした後、グラスに入った薄茶色の液体を一口飲んで続けた。

「運命感じる子がいたんですって」

「運命?」

「そう。見た目は全然タイプじゃないんだけど、なぜか運命感じたらしいの」

「何それ。変なの」

 アリスはまた一口、カシスの甘さを楽しむ。

 アヤはボリュームのある髪を結い直しながら笑っていた。

「その子、いっつも哀愁漂わせて、ほとんど笑顔を見ないって言ってたわ」

「そんな暗そうな子に運命感じるなんて、やっぱりあいつ、変ですね」

 アリスのコメントに、アヤは大笑いした。

 彼女がこんなに笑っているのを見るのは初めてだった。

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