アリスとウサギ

「あれ? 奈々子じゃん」

 アリスはこの店に足を運んだことを、少し後悔した。

 まさか家族揃って店に来るなんて、思ってもみなかった。

「なんだ。いるならメールでもくれればよかったのに」

「来るってわかってたら来なかったけど」

 兄と父は席を一つ挟んでアリスの横に腰を下ろした。

 よりによって、父の方が近い席だ。

 アヤが慣れたようにお絞りを差し出している。

 心の準備も出来ていないというのに家族のお出ましなんて……。

 アリスはその場で固まった。

「客が少ないじゃないか。本当にやっていけてるのか?」

「忙しい時間帯なら店に入れるわけねーだろ。今の時間は隣のほうが忙しいんだよ」

「じゃあそっちの方に……」

「テメーに付ける女はいねえ」

「ハッ。本当に口が減らん」

 勘当されたなどと聞いていたが、思ったよりも親子らしい会話をしていることが意外だ。

 何年も経って、いがみ合いもなくなってきたのだろうか。

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