アリスとウサギ

「奈々子ちゃんて、天然なのかしら」

「え? 絶対そんなことないと思いますけど」

 解せないアリスは首をすぼめておつまみのチョコレートを口に入れた。

 カリッとアーモンドが弾け、コクのある甘さがほんの少しだけウサギへの不安を緩和してくれる。

 しばらく頬杖をついてジャズに聞き入っていると、グラスを拭いていたアヤがドアの方に目をやった。

「あら?」

 アヤが首を傾げるので、気になったアリスもガラス戸に目を向ける。

 人が三人、階段を上ってきているようだ。

 わいわい声も聞こえてきた。

「文句いわねーでさっさと上れよ」

「バカ野郎。それが親父に対する口の聞き方か」

「俺はもうお前の息子じゃねえ」

「まあまあ、二人とも」

 ガラスの扉越しに見えたのは、ウサギだった。

 それに同年代の青年。

 そして、頑固そうなおじさん。

 そう、宇佐木ファミリーだ。

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