アリスとウサギ

「なに?」

 握られた左手の違和感は、その響きにかき消されていた。

「いつから実家帰るんだっけ」

「明日だって言ったじゃない」

 昨日彼が出かける前にも同じ話をした。

 帰りの日程まで、自分の手帳に書いていたくせに。

「それと、来年の4月あたりで俺、店に入るの週一になるから」

「え? どうして?」

「人材が育ったから、裏方に回る」

「ああ、そうなの?」

「そう。だから楽になるし、夜も一緒にいられるな」

「ふーん。っていうか、何なの突然。話に繋がりがないじゃない。寝ぼけてる?」

 アリスは眉間にしわを寄せて、ウサギの話を頭で繰り返した。

 やはり繋がりはない。

 普段はそんな話し方しないのに、やっぱり寝ぼけているのだろうか。

 そんなアリスの様子を、ウサギはニヤニヤと笑みを浮かべて眺めている。

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