アリスとウサギ

「最終的には何年先でもいいんだけどさ」

 また脈絡のない話を始めるウサギ。

「ただ、仕事とか始められて遠くに行っちゃうと困るから、ね」

 アリスは眉間にしわを寄せたまま答えを求める。

「ねえ、意味わかんないよ。何年先って、何?」

「だから明日さ……」

「明日は朝のバスで実家に帰るってば」

「うん、だから、一緒に」

「はぁっ?」

 わけのわからない展開に、アリスはもうお手上げだ。

 ウサギは笑いながら、握っていたアリスの左手を上げる。

 お手上げ、という駄洒落ではない。

 冷たい空気に晒された左手が感じたのは、寒いという感覚だけではなかった。

 一部がやや、重い。

 アリスは今までに感じていた違和感を思い出し、視線をそこに向けてみる。

 すると、窓から差し込んだ微かな光を、何かが反射した。

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