幸せのカケラ
耳たぶ
大福が食べたくなった。

突然。




暖かい五月の春日和。

庭では遅咲きのチューリップが、気持ちよさ気に身体をそよ風に委ねていた。

遅咲きも役得ねと、囁く声が聞こえてきそうなくらいに気持ち良さそう。




日だまりに包まれた縁側に座り、飼い猫の桃太郎を膝に乗せ、ぼんやりとそれを眺めていたら、突然予言が降りてきたみたいに大福が浮かんだんだ。




買いに行こうかな。

でも君に留守番を頼まれているし。




外出したら怒るかな?

頼んだでしょうと、眉を三角にして怒るかな?





でも大福は食べたいなぁ。



できるなら、桜屋の大福がいいな。

あの三番街にある、老舗の。


美味しいんだよなぁ。





丁寧に濾されたこしあんは、まるで絹豆腐みたいに、しっとりとした舌触りで。

甘さが控えめなのも僕好みで嬉しい。



あんを包む餅は、ふよんとまぁるい、まるで空気を包み込んだみたいな愛らしい形で。

持ち上げると、手からこぼれそうなくらい、ふっくらと柔らかで。

なのに、ちゃんと餅独特の重さと歯ごたえがあるんだ。





考えれば考える程、どうしようも無くなる。
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