ハツコイ☆血肉色
★4 円城寺
乳房にメスを入れる。

柔らかな上質のフォアグラにナイフを刺すように。


まずは大胸筋に沿って楕円を描くように外郭のラインを決め、表皮から内側に向けて徐々に切開していく。


然るのち、開いた肉の間に剪刀を滑り込ませ、細心の注意を払いながら胸筋膜を剥離し、乳腺は余さず切除する。


鮮度を保つためにも、作業は迅速に進めなければならない。


何しろ乳房は二つあるのだ。




頭の中でオペのシミュレーションをしているうちに、唇の端が吊り上がっていることに気付いた。

迂闊だったと内省し、すぐに表情を作り直す。


女は恍惚として花火に見入っていた。


次第に花火の打ち上がるペースは速まり、ちっぽけな夏の風物詩も山場を迎えようとしている。

女は歓声を上げながら、時折たわいないことで僕に話しかけ、一人で浮かれ騒いでいた。


僕は差し障りなく女の相手をしながらも、近寄ってくる羽虫を追い払うことに余念がなかった。

露出された谷間部分に、虫刺されの跡が残るかもしれないと憂慮してのことだ。

切除するまでは、何としても美しいままの状態を保持しておきたかった。



やがて最後の花火が夜空に消えて、辺りに静寂が訪れた。


「終わっちゃった……」

「うん」

「綺麗だったなあ……。なんかすごい得した気分。まさか今日花火が見れるとも思ってなかったし。来年もここで見れたら嬉しいなっ」

「そうだね」


残念ながら、お前には来年どころか明日さえやってこない。
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