ハツコイ☆血肉色
「部屋に戻ろう。いつまでもここにいると虫に刺されるよ」


足早にリビングへ戻ろうとすると、背後から女が僕を呼びとめた。


「あれってなんの明かり? なんか青く光ってる」


女が指差しているのは、テラスに隣接する側壁のドアだった。

全面すりガラスになったドアは、中にあるブラックライトの灯りを受け、ぼんやりと青白く光っている。


「ブラックライトだよ。中に水槽なんかが置いてあるから」

「水槽? 熱帯魚とか?」

「……うん、まあね」

「ほんと? 熱帯魚みたーい」


女がドアのほうに向かったので、咄嗟に腕を掴んで引きとめた。


「それより、チーズケーキでも食べない?」

「ち、チーズケーキ? 食べる食べる、チーズケーキ大好き」


女はいきなり腕を掴まれたことに一瞬驚きの表情を見せたが、嬉々として身を翻した。


「あとで熱帯魚みせてもらっていい?」

「うん、いいよ」


そんなもの、いやしないが。


「あ、さっきのドーベルマンはあの部屋にいないよね?」

「うん。もしかして、犬は苦手?」

「うーん、得意ではないかな……あはは」

「安心して。ハービーは地下の部屋に入れてある」


今頃はさぞかし、女の肉を待ちわびていることだろう。

乳房を取り除いた女の残り滓を。
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