ハツコイ☆血肉色
彼はまたしてもわたしの髪をつかみ、そのまま引きずるようにして浴室へ向かった。


「来い。今すぐ処分してやる」

「いたたたた……」


乱暴に開けられたドアから浴室に入ると、つんと鼻をつくにおいがした。

生ごみのような、さびた鉄のような、胸がむかむかするにおいだ。


見ると、なにやらうす汚れた浴室だった。

床にも壁にも赤いカビのようなものが生えていて、妙に年期が入っているような気がした。

どこもかしこもピカピカの円城寺邸にそぐわない場所のような――


そこでわたしはピンときた。


このにおいは血だ。

間違いない。

わたしはこのにおいを知っている。


このままでは取り返しのつかないことになると直感したわたしは、すぐさま行動に移した。

後ろから彼の股のあいだに手を入れて、そこにあるものを力いっぱい握りしめた。


「えいっ!」


おう、というくぐもった声を漏らし、円城寺くんはわたしの髪から手を離した。

そのすきを逃さず、両手で彼を思いきり突き飛ばすやいなや、わたしは身をひるがえして浴室を飛びだした。


背後から、獣の雄たけびのような声が聞こえた。
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