恋せよ乙女

「そんなことより、って…。仕事で忙しい僕にとっては、結構重要なことなんだけど。」


相変わらず呆れたような、もう諦めているような、そんな表情を浮かべながらも、一応行動を止めてくれた氷室さんの机上、カバンから取り出した包みを広げる。


「見てくださいよコレっ!
今日のやつ、本気で上手くいったんですってば!」

「いや、だからさ、本気で人の話聞きなよ…」


そして、またまた氷室さんの言葉を無視し、綺麗にラッピングが施されたあたしの手作りクッキーを、彼の胸元へと差し出した。


「……もしかして、またクッキー?
何回も言ってるけど、食べないよ。」


めんどくさそうに、そう言われるのもいつものこと。もう何十回と言われているその言葉に、今更、傷ついたりなんかしない。

むしろ、この程度で傷つくくらいならいい加減、氷室さんを追いかけること自体をやめている。


「知ってますよ。だから、貰ってくれるだけでいいんです。」


あたしが笑ってそう言えば、氷室さんは不思議そうに首を傾げた。
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