恋せよ乙女

「氷室さ…」

「ほら、これでもう気が済んだでしょ。
紫音が怖い夢見ないように、手ぐらいなら繋いでてあげるから、いい加減少し寝なよ。」


あたしの言葉を遮るように発された、氷室さんの言葉。

言い方はいつもと変わらない。けれど、伝わってくる優しさに、気遣いに、触れた心はあたたかい。


「…何か、今日の氷室さん優しいですね。」

「何それ。…キミが知らないだけで、僕はいつも優しいよ。」


そう言って、クスッと控えめに笑った氷室さんは、言葉通りとても優しい顔をしていた。

それなのに余計な口を出してしまうのは、きっとあたしの悪い癖。


「いつもは優しくないですよ?」

「……手、離していい?」

「いや、いいも悪いもあたしが離しませんけど。」


そして、何だかんだ言って繋がれたままの手。氷室さんが優しいことくらい知ってる、そう想いを込めてぎゅっと握りしめると、意識は夢の世界へ落ちた。
< 72 / 396 >

この作品をシェア

pagetop