恋する受験生
涙が乾かないまま家に着いた。
玄関先で泣き崩れた私を抱きしめてくれたのはお母さんだった。
「俊が…… 俊がね」
頭ではわかってる。
どうしようもないことだって。
俊は悪くない。
誰も悪くないって。
「紗江、しっかりしなさい」
優しく肩を抱かれ、私は目を閉じた。
浮かんでくるのは、俊の優しい笑顔。
俊のマフラー。
俊の鞄。
俊の字。
俊の書く英語が好きだった。
先生みたいに綺麗な字。
「紗江、俊君のこと嫌いだなんて言っちゃだめよ」
「だって、だって……」
まるでだだっ子。
お母さんは私の前髪を上げて、おでこに手を当てた。
小さい頃、よくやってもらった気がする。