心の傷
 もう一度私が口にした言葉に章也くんの唇の震えが止まった。

無理に笑おうとして失敗した、そんな表情を私に向ける。

「……いや、こっちこそいきなりごめん。話を聞いてくれてありがと」

 変声期を迎えた章也くんの声は想像していたよりもしっかりと私の耳に届いた。

私が何か言う前に背中を向けたのは、私にこれ以上情けない顔を見せないために彼ができる最後の強がりだったのだろうか。

 背中を向けて校舎に戻っていく姿はいつもよりもしぼんで見えた。

がっかりしたように両肩を落として、ほんの少し背中を丸めて歩いているからかもしれない。

そんな章也くんの背中を見るのは初めての事だった。

 ズキンと胸に鈍い痛みが走った。

 その痛みの正体を私は知っている。

告白を断った罪悪感なんかではない。

何故なら、私の心の片隅にも章也くんに対して悪いという気持ちは欠片も存在しないのだから。

それならば、この痛みは何だ?

この痛みは言うなれば『同病相憐れむ』というやつだ。

 私も恋を失った。

 本当に大好きな人で私の初恋だった。

 章也くんにとって私は初恋ではないかもしれない。それでも章也くんも恋を失ったのだ。

 だから『同病』。
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