心の傷
亜衣に答えて挨拶をしながら、私は今、抱えているモヤモヤ感が収まっていくのを感じていた。

 小柄な亜衣はいつでも笑っている。

しかも性格も穏やかで一緒にいるだけで何だか優しい気持ちになれる子だ。

亜衣といつものようにくだらない雑談をしているうちに気持ちが冷えていくのを感じた。

自分の中で混乱していた考えがまとまっていく。

 忘れよう。

 章也くんも今までと変わらない態度で接しようとしている。

 それなのに、私だけが馬鹿みたいに意識しているなんて何だか悔しい。

告白してきたのは向こうなのだ。

それなのに、私が章也くんの事を考えて混乱しているなんて絶対に間違っている。

告白された事なんて忘れてしまって、私も今まで通り章也くんに接していこう。

「遥日、どうかしたの?」

 突然、黙り込んだ私の顔を亜衣が訝しげに覗きこんできた。

「何でもない!それより、今日の数学の宿題やってきた?」

 無理やり笑顔を作りながら話をそらす。私の耳には章也くんの笑い声が不自然なほど響いて聞こえていた。
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